オーナー制度のススメ 〜「土に触れる」という選択

野菜や果物、米、魚、肉・・・私たちが毎日口にする食べ物。今でこそスーパーマーケットでなんでも手に入りますが、商品として店頭に並ぶまでには、作り手の皆さんの様々な経験や苦労があります。でも、忙しい現代人にとって、作物がどんなふうに手がけられたか、背景やストーリーまで思いを馳せるのは簡単ではありません。そこで、今回は農作物の生産現場に携わるきっかけづくりとして、「オーナー制度」について紹介します。

オーナー制度とは、農作物の収穫前から予約を入れ、収穫後または食品加工品の完成後に商品を受け取る仕組み。機械による省力化が難しく人手が必要な果物から、担い手の少なくなった棚田の保全を目指す棚田オーナー制度まで多様化しています。生産者にとっては収穫前から売上の見込みが立つ点がメリットの一つで、利用者にとっては生産者と直接つながり、農作業の楽しさ・厳しさや、作物の生育状況を知るきっかけになります。

果物 〜1本で200個の実が成るリンゴの樹

今が旬の冬の果物といえば、リンゴ!筆者が暮らす長野県には、県内各地にりんご畑がありますが、このうち減農薬・有機栽培を実践している駒ヶ根市の農園「果樹園あかはね」では、1本5,000円でリンゴの木の「オーナー」になれます。筆者の場合、まず10月に農園を見に行って「自分の木」を決め、翌月再び農園に行って1時間ほどかけて約200個のリンゴを収穫しました。園主の赤羽日出夫さんは、「今期は実が大きくなる時期に雨が少なく小さいかな。でも味が凝縮されてるよ」と言いながら、枝を傷つけずに果実を摘み取る方法を教えてくれました。

赤羽さんは、以前は電気関係の仕事をしていましたが、15年ほど前、後継者を探していた農園を引き取り、リンゴ農家として新たな一歩を踏み出しました。現在、155haほどの敷地で2,500本以上の樹を管理しています。オーナー制度を開始したのは「収穫時の人手がほしかったから」と言いますが、今や関東や中部地方など遠方からも多くの人が収穫体験に訪れます。

果物のオーナー制度には、ほかにも和歌山や愛媛のみかん、柿、ぶどう、グレープフルーツなど様々な種類がありますので、ぜひ最寄りの果樹園や好きな果物のオーナー制度を探してみてください。

オーナー制度-りんご

青空の下、雄大な山々を眺めながらのりんご狩り

野菜 〜大人もハマる 日本一お手軽な収穫体験

春は菜の花やタケノコ、夏はトウモロコシ、秋はサツマイモ、冬は白菜に大根・・・1年を通して様々な野菜を収穫できる「畑のオーナー制度」もあります。例えば、静岡県富士宮市の「まきば農園」。富士山の麓にある「まかいの牧場」の敷地内にあるこの農園では、静岡県をはじめ全国120世帯(年間)がオーナーとして登録しており、牧場を訪れた人もその場で気軽にオーナーになれます。

1畝4,000円、選べる野菜の種類は10種類以上。ほぼ毎月、様々な野菜の種付けが行われるため、タイミングの合う日取りや好みの野菜を選んで、種付けに参加し、数カ月後の収穫時期を待ちます。その過程で必要な草取りなどは牧場のスタッフがやってくれる上、収穫体験に参加できない人には収穫物の配送サービスも可能です。

「採れたての野菜はどれもおいしいですが、特にこの地域でしか食べられない茹で落花生などは格別」と語るのは、牧場スタッフの新海貴志さんです。10年以上前、農家の協力を得て自力で有機農業を学び、農園では一切農薬を使わない野菜を育てています。また、牧場では、旬の食体験講習会も実施しています。一連の体験を経ることで、野菜嫌いだった子が椎茸や菜の花もモリモリ食べるようになるそうです。

「農業の裾野を広げたい」と語る新海さん。その取り組みは、「いただきます」「ごちそうさま」の心を育てる人づくりの活動でもあります。

年間のべ1万人以上に利用されるまきば農園

米・棚田 〜1年を通して田植えや稲刈りに挑戦

短期間で収穫体験できる果物や野菜だけでなく、もっと本格的に土に触れたいという人は、棚田の米作りに挑戦してはいかがでしょうか。

NPO法人棚田ネットワークが運営するサイト「棚田百貨堂」によれば、棚田のオーナー制度は現在、全国32府県約80地区で行われ、地元農家や保存会の皆さんによって運営されています。オーナーになると、一定区画の田んぼが割り当てられ、1年を通して田植えや稲刈りなどの農作業体験や収穫物が得られます。多くのオーナーは、「自然に触れたい」「子どもの教育のために」などの理由で参加していて、全国的に棚田の耕作放棄が進む中、その保全の一翼を担っています。

米に関連した取り組みでは、ほかにも「酒蔵オーナー制度」なる仕組みも全国各地で展開されています。酒米の田植えに始まり、生育の確認や稲刈り、生酒のきき酒など、一連の酒造りの流れが学べます。

棚田保全の一翼を担う棚田オーナー制度

「なんでもいいからまずは始めてみたい」「何のオーナーになるかじっくり考えたい」。そんな人は、2020年10月にオープンしたばかりの、オーナー型コミュニティサービス『たたたん!』のサイトから、ヒントが得られるかもしれません。

こだわりや熱意をもって取り組む生産者さんとつながることで、日々の食事や自然の恵み、地球の豊かさについて、少し立ち止まって考えるチャンスが得られるはずです。

【ウェブサイト】産地と交流・体験できる オーナー型コミュニティサービス『たたたん!』
【ウェブサイト】棚田百貨堂~棚田オーナー制度募集地域紹介サイト
【ウェブサイト】まきば農園
【ウェブサイト】果樹園あかはね

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新海 美保

新海 美保

新海美保(しんかい みほ)。出版社やPRコンサル企業などを経て、2014年にライター・エディターとして独立。雑誌やウェブサイト、書籍の編集、執筆、校正、撮影のほか、国際機関や企業、NPOのPRサポートも行っている。主なテーマは国際協力、防災、サステナビリティ、京都など。一児の母。現在、長野県在住。2021年4月からフィジーへ移住予定。共著『グローバル化のなかの日本再考』(葦書房)ほか

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