「これからのパパに道しるべを示したい」兼業主夫・杉山錠士さんに聞くパパの家事・育児

杉山錠士

今回、Life Hugger編集部では、テレビやラジオの放送作家としての仕事をしながら家事・育児に奔走する「兼業主夫」として活動する杉山錠士さんに、パパが家事・育児をすることについて、ご自身の経験をもとにお話しいただくとともに、杉山さんが所属し運営を手掛ける日本最大級の父親支援団体であるNPO法人ファザーリング・ジャパンの総合子育てポータルサイト「パパしるべ」について、創設の経緯や運営への想いを伺いました。

聞き手:和田みどり、秋山哲一

プロフィール:杉山錠士さん

放送作家として活動する傍ら、主に「父親」に関する商品開発や講演、執筆などの事業を手掛ける株式会社ジョージ代表取締役。品川区の旗の台駅から徒歩1分に位置するバー「BAL Cero(バル セロ)」オーナーの顔も持つ。NPO法人ファザーリング・ジャパン、秘密結社主夫の友、NPO法人イクメンクラブ日本パパ料理協会などの団体に所属。著書『コミックエッセイ 新ニッポンの父ちゃん ~兼業主夫ですが、なにか?~』『急に「変われ」と言われても

目次

杉山さんが”兼業主夫”になった経緯 ~夫婦・家族について~

和田:杉山さんが”兼業主夫”になった経緯を教えてください。

杉山:大学時代から働き始め、社会人5年目のときに、専門学校生だった妻と結婚しました。私は子どものころから家事をしており、一人暮らしに不自由はしていなかった一方、妻は実家暮らしで、一人暮らしをして家事をした経験はありませんでした。

妻は洋服のデザインをする仕事をしており、アーティスト気質が強く、家事・育児の得意不得意というよりは、洋服のデザインをすることが生活の第一にあり、子どもが生まれてからもペースを乱されることが苦手でした。

私自身、結婚当初や子どもが生まれた当時は大きな勘違いをしていて、女性は結婚すると家事ができるようになる、子どもが生まれると子どもの世話ができるようになる感覚がありました。それは何かの免許をとるようにそうなると思っていました。

和田:結婚して、子どもが生まれると、途端に妻が家事と育児をすることができるようになると思っている男性は少なくないでしょうね。

杉山:それが違うと理解するまでに時間がかかりました。いろいろ調べたところ、どうやら10歳くらいになると家事・育児が生活のなかの営みであると認識するらしいです。そのとき、父母はすでに10年の家事・育児の経験を積んでいるんです。ですから男性からみると自身が10歳のときの母親像が基準のため、妻・母親としていろいろできるのは当たり前のような感覚を持ってしまっている。だから実際に結婚してみると、妻がその水準に達していないと感じてしまうんです。

一方で、妻からみても、10年もの間、家事・育児の経験を積んだ父親と結婚したばかりの夫を見比べると、夫がものすごく頼りなく見えてしまったかもしれません。

和田:私も母親と比べると、できていない感覚になることがあります。自分自身に妻・母親であることを期待していたんですね。

杉山:結婚したばかりの女性も自分の母親と比べるとできていない感覚になり、男性も同じように自分の父親と比べるとできていないように感じるようです。私の場合は、子どもが生まれる前に父が亡くなっているので、父から”父親”としての話を聞いたことがないこともあり、寂しく残念だと思うこともありますが、かえってよかった気もしています。

女性が家事・育児をやらなければならないという風潮もまだまだあると思います。男性も家事・育児は妻任せと開き直ることなく、しっかり向き合っていかないとその風潮は変わらないと感じています。

家族

和田:家庭にとどまることなく仕事に就く20~40歳代の女性も増えてきています。男性も社会の固定観念にとらわれているようなところも多いように思います。

杉山:家事が苦手な女性がたくさんいることを認識していない男性も多いです。一方で、世の中では競争が苦手な男性もあまり認められてきませんでした。それが今少しずつ知られるようになってきた向きもあります。

男性に対しては「稼げるのが当たり前」だとか「24時間働いても死なない」といったイメージの発信もされてきましたが、それが徐々になくなってきたように思います。

私の両親もそうだったのですが、たとえば、夫婦間で、妻が働きたいというときに、夫としては「(妻が)ちゃんと家事やるならいいよ」「今の家事のクオリティを落とさないのであれば働いてもいいよ」というようなことがあります。それってすごいプレッシャーですよね。

そして、逆のパターンもあります。夫が育休を取得する、家事に専念するときには、妻は「(夫の)収入が落ちなければいいよ」と言う。夫もそれをすごくプレッシャーだと感じ、そのギャップに落ち込んでいってしまいます。家のこともやりたいし、それをすることで妻がその分楽になる側面もありますが、それで収入が落ちたら、男、夫として妻、家族から認められないと思い込んでしまうこともあります。

和田:そうですね。最近の女性だけでなく男性は大変だなと思うことがあります。収入も担保しないといけないし、休日も子どもと遊ばないといけない。平日でも家事は分担してやる。周りからだけではなく自身に対しての期待値も高いなと感じます。

杉山:収入については、妻・女性側は社会的には求められていないように思います。しっかり働いているとか、リスクヘッジとして働くとか、正社員であるとか、そういうことは求められていますが、男性より稼いでほしいとは思われていませんし、妻側と比べ、夫側はより稼ぎを求められる不公平さがあると感じます。

和田:男性が”専業主夫”であることに対しては、やはりまだ特別な印象がありますね。特殊な事情があるのではないか、変わった人なのかもしれないと思う方も少なくないですよね。

杉山:特に”専業主夫”であると社会的に言いづらいし、結果そういう人が少ないということになります。私が所属する「主夫の友」のメンバーにも、妻側のお父さんに、難色を示されたという人もいます。その人は病気を患ってしまい、収入がなくなったことが原因で”専業主夫”になったのですが、”主夫”になるにしてもむしろそのように明確な要因があることでかえって理解されることもあります。反対にそういう理由がなければ”主夫”になってもダメな人としかみられないことが多々あります。

要はなぜ主夫になったかと誰かに問われたときに、そういう明確な理由がないと世間的に腑に落ちない部分がある。でも女性が”主婦”になる、”兼業主婦”になる場合は理由を聞かれません。

和田:これから夫婦になる若い世代は、女性が仕事で男性が家事・育児に専念したいということも増えてくるように思います。社会や家庭の中で期待される役割も変わっていくのではないでしょうか。

杉山:世の中がどれほど変わっても、家庭が変わらないと難しいと思います。日本は本音と建前を外と内で使いわけがちです。

また、外での教育の影響ももちろんありますが、空気のよみ方や受け取り方を身に着ける素養は家庭にあると思います。たとえば、同じ教育を受けても、それを「なるほど」と素直に先生が言ったことを受け取れるか、それを「バカなことを話している」と批判的に受け止めるかは、それぞれの家庭にかかってしまうような面もある。子どもが親に「学校では男女平等といわれたよ」と話しても、家庭では「それは建前だ」と話したとすると、子どもは親の言うことを聞き、学校でもその立場でふるまいます。

和田:家庭の影響力は大きいですね。

杉山:子どもと一緒にいる時間も長いですからね。

日々の家事と分担について

和田:日々の家事分担について、具体的に教えていただけますか。

杉山:明確に決まっているのは私が料理、妻が洗濯です。風呂掃除、トイレ掃除など、家事はほぼ私がやっています。妻はここのところ床掃除を積極的にやるようになりました。長女も全般的に手伝ってくれます。

和田:明確に家事を分担していると円滑にまわるのでしょうか。それともできるときにできる人がやるほうがよいのでしょうか。

杉山:夫婦、家族でルールを決めるのか、決めないのかを徹底的に話し合うことが大事です。どこかで発信している使えそうなメソッド、方法を家庭にそのまま取り入れようとすると、うまくいかないはずです。それぞれの家事の考え方や気持ちを共有していると、変化に対応しやすくなります。決めたルールを破ることもよくあることですし、そういうことが起きることを前提として、対応することが大事です。私の場合は、ひたすら妻に「これはどう?これはああ思う?」などを1つ1つ聞いていくことでまわるようにしました。

和田:話し合う時間を設けてというのが億劫な場合、そのときどきで考えを聞いて、引き出していくのはいいですね。

杉山:妻がなぜ床を掃除するようになったのかというと、私が掃除した後に気になる汚れがあったからでした。妻は日々のルーティーンに取り入れることで、床を掃除するようになりました。

和田:家事分担も夫婦が心地よく過ごせるよう調整する機会を設けるのが大切ですね。

杉山:そうすることで変化が起こることに対して寛容になりますし、どのあたりの変化まで許容できるのかを認識できます。そもそも家事分担をする前にもやることがたくさんありますし、お互いの認識のすりあわせができていれば、家事を分担できていてもいなくても、円滑にまわります。コミュニケーションをとるのが大切です。話し合うときにおすすめしたいのはお互いの間に置いた紙に書くことです。また、話の脱線を防ぐためにも目的もあらかじめ決めておくといいと思います。

和田:苦手な家事はありますか。

杉山:苦手な家事は全部です。クオリティは低いと思います。料理のときにはコンロからはみ出しそうなほどに食材が飛ぶし、その都度きれいにはできていません。それを突っ込まれることもあるのですがそのときは「ありがとう。やって」と話しています(笑)

和田:せっかくやってもらった家事に対して文句を言ってしまうこともあると思いますが、いわないことも大事ですね。

杉山:やってもらったことに対して突っ込みをいれるなら、一緒に改善するまでやるのが大事です。仕事だったらそうするはずです。実際に手を動かさなくても、たとえば一緒にやり方を考えるようなことも家事のうちです。食事を用意するときも「何がいい?」と聞いたときに「これを食べたい」と言ってくれるだけでかなり楽になりますが「なんでもいい」と答えられると一番大変ですよね。このとき結局掘り下げて聞いていくことになりますが、このときも「お昼何時に食べた?」「誰と食べた?」「何を食べた?」と答えやすい質問をすると「今日はお肉を食べたんだね。それじゃ、夕飯はお肉以外にしようか」といった具合に決めやすくなります。

夫婦、家族の関係をよくしようとするなら、どれだけ一緒にいないときのことを想像できるかも大事ですね。夫婦になる前、恋人のことを考えていたときと同じように、たとえば、仕事からの帰り際に少しだけでも「今日は、妻、子は何を食べたかな。どう過ごしたのかな」と想像するだけでいろいろなことが変わって、顔をあわせている時間が豊かになっていくはずです。

和田:リモートワークになってから、あまり夫と仲がよくないと思う瞬間が増えました。私が家のことをやっていると夫がやっていないことが気になります。一方で夫も同じように思うようです。忙しい中で時間をやりくりしながらだと、相手に対して批判する目が厳しくなってきて、お互いずっと家にいることで気をつかって疲れるので、やはり適度な距離がお互いに必要だなと思いました。

杉山:私の場合は、妻がリモートワークではない分、その点は悩むことがないのですが、妻が1か月休業したときに同じような経験をしました。

妻は仕事ではなく休業で家にいたこともあり、朝10時半に起きてきて、私が妻に「昼ごはんはどうする?」と聞くと、「いらない」という。「いつ食べるの?」と聞くと、「適当に」という。その妻が適当に食べるものは誰がつくるのかというと私なのですが、時間がずれていくので一日中ごはんを作っているような感覚にすらなってきました。

和田:耳が痛いですね。わが家の夫もよく料理をするので、「ごはんどうする?」と聞かれるのですが、私も子どもも「何でもいい」と答えてしまうことが多いです。

杉山:ほかに「大変なら無理してやらないでいいよ」と言われるのもきついですね。そう言われると自分がやっていたことが否定されているような感じになるんです。あくまで理想ですけど「できないならやらなくていいよ、私がやっておくから」ではなくて「大変だったら私がこれやるから、これ任せていい?」「いつもやってくれていて助かるんだけど、本当に迷惑かけていて申し訳ないから、私がやるね」と言ってくれたらうれしいですね。

それでいうと最近、長女がヴィーガンになったのですが、さすがにいつも食事の内容をお父さんに考えてもらうのは申し訳ないから昼ごはんの支度は自分でやると言ってくれるようになりました。それでも長女がバレエのスタジオから帰ってきてから「なにかある?」と言われることもあって「君が食べられるのは豆腐と厚揚げしかないよ」ということもあります。

和田:「やらなくていいよ」と言ってしまうのは夫婦間ではありがちな話だと思っているのですが、そのときに家事をやっている人が家事をやっていない人にかけてしまう「大変そうだからいいよ」の一言は禁句ということですね。

家事・育児に積極的に関わりたいパパへのアドバイス

和田:家事・育児に積極的に関わりたい男性に対してアドバイスがあれば、いただけますか。

杉山:いきなりやろうとせず、まずは妻と子供を観察して、たくさん興味をもってほしいです。そうすることでやるべきことやできることがみえてきます。何かを読み、こうすればいいというようなことは安易にやらないでください。根本に家族がチームであって、個性があってということを前提としたときに、それぞれに何が必要かということがわかってきます。基本はすべて思いやりです。相手にとって何が必要かを考えるようにしてください。

学校で子どものころから言われてきたような「自分がされて嫌なことはしてはいけない」というのは価値観が自己中心的で、身勝手なことです。本来は「相手がされて嫌なことはしてはいけない」であるべきです。自分がされてうれしいことが相手もうれしいとは限らないじゃないですか。だから「相手がされてうれしいことをする」。それが大事です。

和田:「自分がこうだから相手もこうだろう」と価値観を押し付けることもありますが、相手にとっては窮屈で逃げ場がないこともありますしね。

杉山:スポーツと同じですよね。サッカーでいえば、得点するための最後のシュートを決めやすいようにパスを出すということです。

「パパしるべ」立ち上げの経緯、運営への想い

パパしるべ

パパしるべ

和田:立ち上げの経緯を教えてください。

杉山:以前、出光興産が運営していた『パパコミ』というウェブサイトがあり、私がPTAの会長をしていたときに、そのつながりでたまたま出光興産に在籍していた方から運営するお話をいただき、その後、私が所属する「ファザーリング・ジャパン」も監修するということで、2年ほど継続しました。

残念ながら長く続けることはかないませんでしたが、男性の育児情報を発信して継続する場が必要だと思い、協賛金や支援してくれる方を募っていきました。パパ向けの情報は検索しても見つけにくいので、これからどんどん広がっていってほしいと思っています

和田:「パパしるべ」の運営を通じて、何を伝えたいですか。

杉山:男性が「子育てをしたいです」と胸を張って発信できるだけではなく、男性でも家事をする人がいて、そういう人がいても悪くないんだという空気に包まれた世の中になってほしいと思っています。いろいろなパパが「子育てなんてたいしたこともやってないのに、なにやってるの」などと周りから言われないように発信していきたいです。そのように言われない場所は今もとても少ないです。職場で育休を取りたいと言えば揶揄されるのもまだまだ当たり前だし「イクメン?」なんて言われてしまうこともままあります。そういうのがない世界が普通になってほしいなと思います。

和田:女性だと「子育てしてるんだ」と言えば当たり前のような空気なのに、男性だと注目されて根掘り葉掘り聞かれるといったようなことがあるのは感じます。

杉山:ほんの一昔前でも攻撃が多かったと思います。”職場”で「家庭と仕事のどっちが大事」と聞かれたんです。言われるなら妻からだと思っていたのに、一緒に職場で働いている人に言われたことに驚きました。ほかに「子どものお迎えがある」と職場で話すと「奥さんがやるんじゃないの?」と言われたりもしました。

職場以外でもたとえば保育園の遠足で「”お母さん”が作ってくれたお弁当を」と先生に言われてしまうと、お弁当を作った父親は存在が消えてしまいます。

あと、乳幼児健診に私が行ったときも「今日、お母さんは?」と聞かれました。保健師さんからすればお母さんが来たほうがいいというのは、お母さんの産後のメンタルなど、どのような状態かが心配なのでという理由があったのですが、それが伝えられていないこともあり、わかりませんでした。また、妻の都合がつかず私が行くと「お母さんに書類を記入してもらってください」と言われたこともありました。

保健所で「お子さんの普段の様子はわからないですよね」と言われたこともあるのですが、「私が毎日子どものことを見ています」と言いたくなったこともあるし、「お母さんに伝えておいてくださいね」と言われたときには「結局妻のおつかいなんだな」と思ってしまったこともありました。

和田:男性が家事や育児をやっても、それが軽視される、否定されるような感覚ですよね。

杉山:家事・育児はパパ、ママ、それ以外の誰がやったとしても問題がないのに、パパがやること自体がマイノリティだという風潮があります。そしてパパが家事・育児のことを発信すると、叩かれることもあります。「パパしるべ」での発信も含めて活動することで、そういうことがなくなる社会に少しずつ変わっていけばと願っています。

Life Huggerの読者に一言

和田:最後にLife Huggerの読者に一言いただけますか。

杉山:新しくパパ・ママになった人たちには「素晴らしい世界にようこそ」と言いたいです。そして家庭については、どのようにすれば家族というチームみんなが笑えるかを考えてほしいと思います。ただ、いつも笑っていないといけないということもないし、ネガティブな感情が出てきたらそれを尊重して、家族みんなで解消できるようにしてください。

編集後記

杉山さんに家事・育児をするにあたってのご家族との関わり方、パパとして”兼業主夫”としての生活について伺うことで、それぞれの家庭にそれぞれの子育ての形があること、家族の話し合いを通じて日々の生活の折り合いをつけながら家族みんなが笑顔で暮らせるようにする大切さを学ぶことができました。

杉山さんが運営に携わる「パパしるべ」には家事・育児に関して、先輩パパの経験や意見などをもとにした記事や専門家による監修記事、独自のアンケート調査の結果などが掲載されています。パパが子育てをするときに信頼できる知識や情報のなかにはこれまでに見聞きしなかった内容や、夫婦で子育てをするときに生まれた課題を解決するためのヒントもつまっています。子育てで困ったとき、「パパしるべ」の記事が悩みを解消するきっかけになるはずです。ぜひ、日々の暮らしに役立ててみてください。

【参照サイト】パパしるべ

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Life Hugger 編集部

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